最近話題になっている「睡眠負債」。
返済が遅れると命に係わる危険もあるという睡眠負債は、寝不足気味という人にとって、決して他人事ではありません。
ではどのようにすれば睡眠負債を解消することができるのでしょうか。
今回は睡眠負債のメカニズムと睡眠負債に陥ったときのリスク、睡眠負債を解消する方法をご紹介します。
1.睡眠負債とは?
睡眠負債とは、睡眠不足が積み重なった状態のこと。
借金で例えると、どれだけ働いても元金や利子を返済できなくなる債務超過の状態に当たります。
もともとはスタンフォード大学の研究者によって提唱された考え方でしたが、2017年にNHKで放送されたスペシャル番組によって一気に注目されるようになりました。
睡眠負債の恐ろしいところは、一度睡眠負債に陥ってしまうと単に眠気が強いというだけでなく、生活や仕事の質が低下、さらに進行するとがんやうつ病、認知症などの原因となる可能性があることです。
さらに睡眠負債は週末の寝だめなどでは解消できないため、本人は寝ているつもりでも知らないうちに負債が積み重なって、気づいたときには取り返しのつかないことになってしまいます。
(人気記事→30代、40代はうつ病になりやすい!?うつと診断された場合の治療法とは?)
2.睡眠負債が起きるメカニズム
それでは、なぜ睡眠負債が起きるのでしょうか。
そのメカニズムを見ていく前に、まず睡眠の役割を考えてみましょう。
眠りは人間の身体を休め、翌日からの活動に備えてエネルギーを回復させるための行動だと考えられがちですが、実はそうではありません。
睡眠をもっとも必要としているのは、身体ではなく脳です。
人間は他の動物に比べて、非常に脳を発達させてきた生き物です。
しかし脳は非常に大きな作業を強いられています。
そのため脳には十分な休息が必要ですが、残念なことに脳は横になっているだけでは回復しません。
筋肉の場合であれば、乳酸がたまれば少し運動することでそれを除去し、安静にしていればやがて疲労は回復します。
しかし人間の場合、横になっていても常に脳は動き続けているのです。
そのため、睡眠という方法で休息を取ろうとします。
脳が睡眠を取る場合、まず脳幹が「疲れているから眠りなさい」という命令を出します。
すると大脳は眠りにつく準備に入ります。
これが「眠くなる」という状態。
このとき、脳の中には「睡眠物質」が生まれています。
この「睡眠物質」はプロスタグランデインD2というホルモンで、これが脳の神経を鎮めるGABAという物質に作用して脳を眠りに導きます。
ここで睡眠に入れば何も問題はありません。
しかし、人間は眠くなったといってもすぐに眠れるわけではありません。
もっと仕事をしなけばならない、テレビを見ていたい、スマホのゲームを続けたいなど、様々な理由によって脳幹の命令を拒否します。
そのときに増加するのが「ヒスタミン」です。
ヒスタミンは脳を覚醒させ、その状態を持続させます。
通常は、眠りにつくことで睡眠物質を分解、眠気のない状態で朝を迎えることができますが、ヒスタミンが過剰に分泌された場合、睡眠物質は分解されずに残り続けます。
これが積み重なったのがいわゆる睡眠負債の状態なのです。
たとえば一日に1時間夜更かしをしただけだとしても、これを毎日続けると一週間で7時間、二週間で14時間の睡眠が足りないということになります。
一か月に換算するとなんと28時間。
つまり、一か月に一度は完全に徹夜をしているのと同じ状態です。
このような状態が続くと、脳の働きは少しずつ低下していきます。
3.睡眠負債によって生まれる悪影響
まず最初に睡眠不足の影響を受けやすいのが前頭葉です。
前頭葉は脳の司令塔のような役割を果たす部分で、記憶を整理したり、正しい判断を下したり、注意力を維持したりと、日常生活や仕事をする上では欠かせない存在です。
しかし睡眠負債によって前頭葉の働きが低下すると、注意力が散漫になる、正しい判断を下せなくなる、ケアレスミスが多くなるなどの影響が生まれます。
ただし、ひとつひとつのミスはそれほど大したものではありません。
徹夜をした経験がある人なら分かるかと思いますが、睡眠時間が極端に不足するとハイになってしまうものですが、一日1時間の睡眠不足ではそういった影響も現れません。
しかし、ミスが多くなり、上司に怒られるといったことが続けば心理的にも大きな負担となります。
また、前頭葉の働きの低下は、日常生活にも大きな影響を与えます。
不用意なタイミングで相手を傷つけるような発言をしてしまったり、怒りっぽくいらいらしやすくなったりします。
人間関係にもヒビが入ることもあり、そうなると仕事もプライベートも上手くいかないということになりかねません。
それに加えて、睡眠が不足すると身体はストレスを感じ、それに対応するために交感神経が活発化します。
交感神経は「闘争の神経」と呼ばれるように、身体を活発に動かすため、血圧や心拍数を上げるといった効果があり、生命維持には欠かせないものです。
通常は交感神経が活発になったあとは副交感神経が作用し、心と身体を落ち着かせます。
しかし、睡眠不足によって交感神経優位の状態が続くと、やがて自律神経のバランスも崩れてしまい、常にいらいらした状態が続くことになります。
この場合、心の状態も不安定になりがちで、ちょっとしたきっかけで抑うつ状態に陥る可能性もあります。
さらに睡眠不足による免疫力の低下も重なります。
このように睡眠負債になるということは、心身ともに非常に危険な状態にさらされ続けると言い換えることもできます。
4.睡眠不足は肥満の原因にも
睡眠不足は肥満の原因にもなります。
睡眠が不足すると、身体の中でレプチンというホルモンが減少するためです。
このレプチンは別名満腹ホルモンと呼ばれるもので、脳に「栄養は十分だからもう食べなくてもいい」という指令を送ります。
しかし、睡眠不足の状態では身体は危機にさらされていると判断、レプチンを減らす代わりにグレリンというホルモンを多く分泌します。
グレリンは別名「空腹ホルモン」と呼ばれるもので、レプチンとは逆に「栄養が足りないから食べろ」という指令を送ります。
しかもこのグレリンは高カロリーのものを求めるという性質があります。
夜更かししていると、なんとなくスナック菓子やインスタントラーメンが食べたくなったという経験がある人も多いかと思いますが、それはこのグレリンの仕業です。
さらにグレリンは脂肪の蓄積を促します。
睡眠負債の状態になると、常にこのグレリンが分泌します。
そのため、お腹が減りやすく脂肪もつきやすいという体質になってしまうのです。
(人気記事→お腹はすいていないのに食べちゃう人必見!食欲をコントロールする方法!)
5.なぜ寝だめでは回復しない?
平日に寝不足でも、週末に寝だめすれば回復するのではと思っていませんか?
残念ながら、睡眠負債は寝だめでは回復しないといわれています。
人間に必要な睡眠時間は人によって異なりますが、多くの人の体内のサイクルは25時間と言われています。
この体内時計は、朝目覚めたときに太陽の光を浴びることによってリセット、身体は一日の始まりだと認識し活動を開始します。
その一方で、身体はもうひとつの時計を持っています。
それは「恒常的睡眠欲」と呼ばれるもので、いわゆる「睡眠リズム」というのがこの時計に当たります。
この恒常的睡眠欲とは、簡単にいえば起きている時間が長くなればなるほど、長い時間眠っていたくなる衝動のことです。
たとえば、20時間起きていた場合、身体は寝不足だと感じてできるだけ長く眠っていようとします。
これは当然のことだと思えますが、しかしひとつ落とし穴があります。
それは第一の体内時計です。
つまり、どれだけ長い時間眠っていようとしても、朝になって光を浴びた瞬間に身体の中の時計がリセットされ、自動的に活動を開始してしまうのです。
そこでもう一度眠ったとしても、睡眠の質が低下、起きているのと変わらない状態になってしまいます。
しかも「恒常的睡眠欲」は、長く起きていれば長く寝たくなりますが、反対に長く寝ていれば、その分長く起きていたくなるという機能も備えています。
そのため週末の土日で睡眠時間を回復しようとしても、土曜日に眠った分が逆に働き、日曜日は眠れなくなるという結果になってしまいます。
その結果、日曜日の就寝時間がさらに遅くなり睡眠負債を解消するどころか、さらに新しい負債を背負ってしまうということにもなってしまうのです。
6.睡眠負債を解消する4つの方法
様々な危険をはらんだ睡眠負債。
寝だめも効果がないとすれば、どのように対処すればいいのでしょうか。
睡眠負債を解消するためには、いくつかのポイントがあります。
6-1.できる限り早寝をする
前述のとおり、人間の身体の中には強力な体内時計があるため、朝になっても光を浴びると、強制的に身体が活動を開始してしまいます。
これが寝だめが睡眠負債の解消に役立たないという大きな理由です。
また、朝の睡眠は質が悪く、どれだけ横になっていても睡眠負債を解消することはできません。
睡眠負債を解消するために必要なのは夜の睡眠です。
つまり、朝ゆっくり寝ていようとするのではなく、早寝をすることで睡眠時間を稼ぐというのが睡眠負債を解消するためにはもっとも有効です。
早寝といっても無理に早い時間に眠りにつく必要はありません。
たとえば、いつも0時に寝ているという人であれば、普段の15分程度前に眠りにつきましょう。
すると一週間で105分の睡眠時間を稼ぐことができます。
この場合、重要なのが土日であっても朝は毎日同じ時間に起きるということ。
人間の身体には寝ている時間が長くなればなるほど、起きている時間も同様に長くなるという第二の体内時計があります。
そのため、朝ゆっくり寝てしまうと、どうしても夜の就寝の時間が遅くなります。
それを防ぐためにも、朝はできるだけ普段通りに起き、その分の睡眠を夜に回しましょう。
6-2.睡眠の質をアップさせる
睡眠負債を解消するには、睡眠時間だけでなく睡眠の質も重要になります。
質の良い睡眠を取るためには、まず睡眠前の生活習慣を見直す必要があります。
たとえば、眠りにつく直前まで、お酒を飲みながらスマホをいじっているという場合、睡眠の質は極端に低下しています。
というのも、睡眠には副交感神経を優位にするメラトニンというホルモンが重要な役割を果たしますが、強い光を近い距離で見つめていると、メラトニンの分泌量が減少、なかなか眠りにつくことができなくなります。
さらにアルコールは交感神経を高めるため、さらに眠りにつきにくくなります。
そのため、眠る前にはできるだけスマホを見ないようにして、お酒も控え目にしたほうがいいでしょう。
特に、スマホを時計代わりにしているという人は要注意です。
暗い中で強い光を見ると、脳が覚醒し、眠りの質がさらに悪化します。
(おすすめ記事→リセットしたい!その日のうちに疲れをとる6つの方法)
6-3.こまめに昼寝をする
睡眠負債の解消には、昼休みの仮眠なども有効です。
おすすめしたいのは、木曜日や金曜日の昼休みの仮眠です。
睡眠負債が溜まっている場合、もっとも影響が出やすいのが木曜日や金曜日あたりです。
特に睡眠時間が不足している人では、週末にはかなりの負債が溜まっていると考えることができます。
そのため、ケアレスミスが起こりやすい状態といえます。
少しでも昼寝をすることで、脳に休息を与えるだけでなく、少しだけ普段の負債を解消することができます。
ただし、あまり長い時間眠ってしまうと、午後の仕事などに差し支えるため15分~20分程度にしておいたほうがよいでしょう。
6-4.徹底的に寝る日を作る
睡眠負債によって心身ともにダメージを負いかねないという深刻な状況の場合に限り、徹底的に眠る日を作るという方法もあります。
その場合、厚手のカーテンなどで窓を多い、朝の光が入ってこないようにしましょう。
先ほど述べたように、朝の光を浴びてしまうと体内時計がリセットされ、身体が勝手に活動を始めてしまいます。
それを防ぐために、黒いカーテンなどで朝の光を浴びないようにすると、睡眠を続けることができます。
ただし、この方法では、体内の睡眠リズムが崩れ、夜に眠れないということにもなりかねません。
そのため、この方法を実践するのはもうどうしようもないと身体がSOSサインを出したときだけにしておくのがよいでしょう。
まとめ
単なる睡眠不足とは異なり、ときには命に関わる睡眠負債。
もし原因不明の不調を感じているという場合、自分の生活習慣を見直してみてはいかがでしょうか。
T.Ttally
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